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心身症・うつ病・神経症についての理解    (編集責任:田嶋清一)2019,,3,

 

忙しく働く現代人は、会社や家庭のトラブルによって、心身の健康を損ない、心身症・うつ病・神経症になることがあります。以下に、多くの人が陥りやすい、それらの症状の概要と具体的な事例を挙げて、予防・自己理解・症状と折り合うためのヒントを示します。

 

心身症とは心理的社会的原因(会社や家庭のトラブル、学校への不適応など)によって起こる身体の病気です。例えば、胃・十二指腸潰瘍、片頭痛、過敏性腸症候群、心筋梗塞、ガン、高血圧症、過換気症候群、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、摂食障害などです。心身症はストレスの多い現代社会で増加する傾向にあります(「症状」の意味とは?)。

 

 ・うつ病とは脳の心身症であり、心の働きが脳に無理をさせ続けたために、脳の自己調整過程が疲れ果てた状態です。言わば、電池の少なくなった懐中電灯のような状態ですから、「頑張れよ!」と励ましたり、気分転換にカラオケに誘ったり、旅行に連れ出したりすることは禁物です。回復には、十分な休息と睡眠と栄養が必要です。しかし、「うつ病の人は励ましてはいけない」という言葉が一人歩きして、結果的に、うつ病の人にどう対応していいか分からないことによる、戸惑いと腫れ物に触るような態度(ある種の敬遠)が、サポートする側に見られるようです。確かにプレッシャーをかけられることを、うつ病の人は、耐えがたく感じていますから、プレッシャーを含んだ励ましの言葉(𠮟咤激励など)は避けるべきでしょう。しかし、プレッシャーを含まない励ましの言葉、つまり自分の今の心身のうつ状態を明確にして、見通しを与えてくれる言葉であれば、人一倍求めているのです。例えば、「あなたはいま怠けている、のではなくて、病気です。ですから治療すれば治りますよ」とか、「うつ病は、無理をすれば、だれでもかかる病気ですよ」とか、「うつ病は、治療をすれば、良くなったり、悪くなったり、を繰り返しながらも、全体に少しずつ確実に良くなって行きます」などです。そして忙しい現代人の多くは、うつ病予備軍であると言えます。

 

 ・神経症とは心理的原因によって引き起こされる心身の機能的障害です。神経症は、大脳の器質的原因のないこと(器質的原因のあるものは、脳梗塞、認知症、アルツハイマー病など)、また統合失調症(かつての精神分裂病)などの精神病ではないこと、神経症特有の症状があることなどによって診断されます。 

 

 神経症特有の症状とは、不安強迫(強迫とは、例えば、何度も手を洗わねば気が済まない洗浄強迫、鍵をかけたかどうかを何度も確認しなければ気が済まない確認脅迫、誰からも愛されていなければ気が済まない強迫的愛情要求など)や恐怖(例えば、対人恐怖、視線恐怖、乗り物恐怖、高所恐怖、不潔恐怖、閉所恐怖、広場恐怖など)やヒステリー(失声、失明、歩行困難など)です。新フロイト派の精神分析医、K・ホーナイによれば、現代文化の中で生きる誰もが多かれ少なかれ神経症です

 

 神経症であると判断する際、決め手となる二つの特徴があります

 

 一つは、行動のパターン化。いつも人によく思われようとする、失敗しちゃいけないと思う、すぐ怒る、傷つく、自分を責めるなど。(→いやだ!を言うなど反パターンの練習必要)

 

 もう一つは、潜在能力と実際の業績の不一致。本番で実力の半分も出せない(例、見られるのが苦手な新体操選手『アスリートの魂,皆川夏穂』)、美人なのにもてない、など。 

 

 神経症の根底には基本的不安(「敵意に満ちた世界の中で、自分は独りぼっちで無力である」と感じる幼児の感情)がある。この感情は、主に子供に十分な愛情をもっていない親との関係から生まれるという。本当の温かさや愛情に欠けている親は、一生懸命に子供のためを思っているつもりになって、愛情の欠如をカムフラージュする(過保護・過干渉)。しかし、子供はその愛情が本物であるか偽物であるかを敏感に感じ取り不安になる。自分が本当には愛されていないと感じた子供は、親に対して反感や敵意を感じるであろうが、相手が親であるため、これを抑圧するようになるという。この抑圧された敵意が、自分を取り囲む人や物に投影されて、世界はさらに敵意に満ちたものになり、さらに基本的不安が強くなり、悪循環に陥るという(図1、参照)

 

            基本的不安          敵意の投影

 

                            

 

          無条件の愛への過度の要求      敵意の抑圧

 

              ↓                愛を失う恐れ

 

         拒否されたという感情      激しい怒り敵意

 

 

 

              図1、「ホーナイの神経症的悪循環

 

 

 

ホーナイによれば、基本的不安から逃れるために、現代文化の中で四つの手段を組み合わせて使うことがある。しかし、それら「愛情の獲得、屈従、力の獲得、引きこもり」は、不安から逃れる手段として、結局うまくいっていないという。(→ではどうすればいいの?)

 

第一の手段は、愛情の獲得です基本的不安から逃れるために極端に愛情を欲しがることを、自分が相手を愛しているからだと思い込む。何とか相手から愛されようとして必要以上に愛情にしがみつく(つまり貪欲になる)。自分では好きでたまらないから、献身的につくしているつもりだが、少し思い通りにならないと、途端に心の底の敵意が表面化して相手を憎む。ここには相手に対する「しがみつき」が潜んでいる。この「しがみつき」が神経症的愛情要求の特徴です。ホーナイは、現代文化には愛情の過大視がある、とりわけ、結婚に関しては愛情の独占に法律的な基盤まで与えられているので、神経症的愛情要求が見逃されやすいと指摘する。神経症的な人には基本的不安があるので、心の底では他人に敵意を抱きながら、同時に他人から愛されたい、という難しい葛藤の状態にあり、死ぬほど欲しい他人の愛情をなかなか信じられない(愛され下手)。愛されているという確信がない神経症的な人は、愛情の証拠を過度に要求する(例えば、夫が「帰宅が遅くなるよ」という電話をかけ忘れると、それは自分を愛していないからだと思い込む妻)。無理な愛情要求に相手が応えられなくなると、拒否されたと感じ、やっぱり私は愛されていないと思い込み、相手に敵意を抱くが、敵意を持つことによって相手に愛されなくなるのが怖いので、敵意を抑圧する。そのため敵意は、周囲の人や物に投影され、基本的不安がますます大きくなる悪循環が起こる(図1参照)。第二の手段は、屈従です。人に良く思われようとして、自分の気持ちは抑圧し、他人の言いなりになる(八方美人)。第三の手段は、力の獲得です。権力、社会的成功、知的優位(正当化、知性化)によって安心感を得ようとする。第四の手段は、引きこもりです(自宅への引きこもりでなく、心理的引きこもり)愛も戦いも協力も競争も避ける。傷ついたり失望したりしないよう、他人に頼らなくて済むよう、自分にも他人にも無関心になる。何事も本気で受け取らない。自給自足を望む。結婚直前にひどいパニックになる。「自分だけは特別だ」という優越感が孤独を支えているので、挫折し優越感が崩れると、一転して他人の愛情を強く求めることもあるが、不安から逃れる上で結局うまくいっていない。

 

(ではどうすればいいの?→正直に本音を言ってみるなど、認識を深め、パターンの枠を拡げる練習が必要)

 

親子関係上留意すべき点は、神経症が心理的原因で生じるので親から子への影響が大きい点です。神経症的で不安の強い親に育てられ、そう育った事に無自覚なら、つい自分も不安が強く本当の温かさや愛情に乏しい親になる可能性がある。本当の気持ちを表現しない家庭で育てられ(事例3傍線部参照)それに気づかなければ、アレキシサイミア(失感情症:淋しさ・悲しさ等が感じられない)、アレキシソミア(失体感症:疲労・空腹等が感じられない)になりかねない。自分の内なる神経症的傾向を認識しこれと折れ合う工夫が必要です。

 

心身症・うつ病・神経症を引き起こしやすい、「パターン化した行動」とそれを裏付ける「思い込み」のセットがある(板書参照)。例えば、八方美人(誰からも嫌われてはいけないと思う)、完璧主義(失敗してはいけない)、怒りっぽさ、傷つきやすさ、自己嫌悪、自分だけは特別だ、存在を消す、知性化などの意味を考える必要がある(田嶋、2007、第10章)。

 

 ・うつ病、神経症、心身症の事例

 

事例1、Aさん、営業マン、39歳(うつ病)

 

✖✖年、3月 Aさんの日頃の言動が、とげとげしく、他人に対して強引で、ひと言多く、雰囲気もハイであることに上司が気づき、たずねると、不眠がひどいとのこと。寝ついて2時間もすると目がさめ、あとは朝まで30分おきに時計を見てウツラウツラしている、その状態が一年以上続いている。また、仕事がプレッシャーになっているので、朝が来るのが怖いと思っている。慢性的に疲労と焦りと緊張感がある。朝、プラットホームに立つと、電車に飛び込みそうで、怖い、と言うので、上司はすぐ神経科を受診するようすすめた。4月上旬に神経科受診。診断は「うつ病」であった。抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤を処方され、服用して、その後はよく眠れるようになり、その他の症状も改善した。ほぼ半年後、その後の経過を聴いたところ、お陰様で順調で落ち着いています、とのことでした。(この事例を提示した意味は、「うつ病」の人は、一般に気分が沈んでエネルギーの低下した印象を与える場合が多いのですが、逆に、一時的にハイテンションで、エネルギッシュで、他人に攻撃的な印象を与える場合があり、この場合、実は「うつ病」であるのが見逃されやすいのです

 

事例2、Bさん、女性、49歳(うつ病)

 

✖✖年、2月、 頭が重い、だるい、不安とのことで、健保精神科を受診。本人いわく、地域の活動をやり過ぎて、ばったりダメになって、寝込んでしまったとのこと。精神科医の診断は「うつ病」。うつ病テストの得点は20点(軽度うつ状態)。抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤を処方され、カウンセリングも始まった。本人いわく、日頃なんでも完璧にやろうとする。他人から、やり過ぎだよ、と言われるとのこと。(この4年前にも、不眠、食欲不振、だるい、微熱、寝ていたいのに動いていないと落ち着かない…の症状があり、「うつ病」の診断で投薬され、改善している。)今回も、半年間の治療によって、症状の一応の改善があった。しかし、さらに2年後、同様の症状が再発し、健保での治療を再開した。

 

この事例を提示した意味は、「うつ病」は、治っても再発しやすく慢性化しやすいこと

 

事例3、Cさん、事務職員、50代女性、【カウンセリングによって、乗り物恐怖(神経症)と肝機能障害(心身症)の症状が改善したケース】

 

「治療のきっかけ」、✖✖年、5月、職場から健診センターへ来るのに、5時間もかかった。通常1時間以内で来られる距離だが、急行に乗ると駅と駅の間が長く、乗り物恐怖のせいで、パニックになるため、各停にしか乗れない。それを聞いた保健師が受診をすすめた。精神科医の診断は「乗り物恐怖」、投薬は必要なし、カウンセリングのみで治療を行った。 

 

本人の仕事ぶりは有能で、他の職員から頼りにされている。過去20代で対人恐怖の既往歴あり。30代で肝炎になり、肝機能の数値は高いまま今日に至る。慢性的に疲労している。2週間に一回カウンセリングを行った。本人の悩みや関連して思い出すことを聴いた。それによると、現在の乗り物恐怖は5年ほど前に発症している。電車に乗ると、不安で怖い。小さい頃、素直な良い子として育った。母親に「泣くと不幸になるよ」と言われて育った。愚痴を言っちゃいけないと思っている。頼まれるといやと言えない。本当は淋しがりなのに明るく振舞う。しかし、本音は人に会うのがいやなので、スーパーに買い物に行くのもいやだ、行かざるを得ない時は人に会わない道を選ぶ。感情的になるのが怖くて無理に理性的になる(知性化)。カウンセリングを5~6回受ける間に、急行1本で来られるようになった。夫にはじめて「帰宅が遅くなる時は電話して欲しい」と言ったら、夫がそうしてくれたと。今までは、言わずに一人で寝たふりをしていた。自分の中の、相手に対して「ノー」と言いたい気持ちを受け入れられるようになった。けなげすぎるのは、息苦しいと思うようになった。自分の中でいつも浮かぶイメージ(カモメ、海、空、雲、太陽…どこか悲しい景色)に人が混じるようになった。カウンセリングを始めて5か月経った頃、ラッシュの夕方の電車にも乗れるようになった。カウンセリングを始めて10か月経った頃、いやな上司にはじめて「ノー」を言えて、それを楽しめるようにもなったと。肝機能の数値(GOT,GPT)が30位に下がった。以前は100以上あった。30年かかりつけの地元の内科医に「こういうこともあるんだねえ」と言われたと。症状が改善したのでカウンセリングを終結にした。

 

この事例を提示した意味は、本人の考え方や受け止め方の無理が、心身の疲労と人間嫌いを引き起こし、肝機能障害と乗り物恐怖に結びついたと考えられることです

 

 ・相手の話が聴けるための実践編、「積極的傾聴法」(三人グループを作って傾聴の練習) 

 

参考文献:K・ホーナイ(1937)「現代の神経症的人格」 我妻洋訳 誠信書房 

 

    :田嶋清一(2007)「自分と向き合う心理学 意志心理学入門」ディスカヴァー21